見えない光を道具で検出する──光工学から見た「見える化」

私たちの目が直接とらえられるのは、可視光というごく狭い帯域だけです。

それでも現場では、赤外線カメラで温度を見たり、X線で体の内部を見たり、
目では見えない「光の情報」をあたり前のように使っています。

ここでは、note記事『光の「見える」と「見えない」──3つの学問から見た「可視/不可視」の要点』のうち、
光工学の視点:見えない光を『見える化』する技術」部分を、少しだけ実務寄りに分解しておきます。

👉 光工学の視点:見えない光を『見える化』する技術


光工学は何をしている学問か

簡潔に表現すると、光工学は

📚「光を使って情報を取り出し、役に立つ形に変える」学問・技術

です。

  • レンズ、ミラー、フィルタで光の進み方や成分を整える
  • センサーで光を電気信号に変える
  • その信号を処理して画像や数値として出力する

この一連の流れを、「どの波長の光」を「どのように使うか」という設計として扱うのが光工学の仕事になります。


道具が引き直す「見える/見えない」の境界

物理・量子光学の話では、

  • 可視光:網膜が反応できるエネルギー帯
  • 不可視光:それ以外

という、人間側の都合で線引きしました。

光工学の視点では、ここに道具という第3のプレイヤーが入ってきます。

  • 人間の目には見えない波長でも、
    センサーを変えれば検出できる
  • センサーで拾った信号を、
    画像・疑似カラー・グラフなどに加工すれば、人間が理解できる

つまり光工学から見ると「見える/見えない」は、

“道具なしで見える”のか、“道具込みなら見える”のか

という違いにすぎません。


代表例① 赤外線カメラ:温度を色に変える

赤外線は、可視光より波長が長い電磁波です。
人間の目は反応できませんが、専用のセンサーを使えば検出できます。

赤外線カメラでは、

  1. 物体から出てくる赤外線の強さをセンサーで測る
  2. その強さを「温度」に換算する
  3. 温度の違いを、色の違い(擬似カラー)として表示する

という変換を行っています。

  • 高温 → 赤・白に近い色
  • 低温 → 青・黒に近い色

こうして「温度」という本来見えない量が、色の模様として“見える化”されるわけです。


代表例② X線・医療画像:内部構造を濃淡に変える

X線は、さらに波長が短く、エネルギーの強い電磁波です。
物質を透過するときに、どれだけ吸収されるかが組織によって変わります。

  • 骨のように密度が高い部分
    → X線がたくさん吸収される
    → フィルムやセンサーに届く量が減る
  • 筋肉や臓器
    → 比較的透過しやすい

この差を濃淡として記録したものが、レントゲン画像です。

ここでもやっていることはシンプルで、

「X線の通りにくさ(吸収のされ方)」→「白黒の濃淡画像」

という変換です。

光そのものではなく、「光がどれだけ通ったか」の情報を、画像にしていると言えます。


代表例③ 工業検査:ムラ・キズ・膜厚を「パターン」に変える

製造の現場では、レンズ・フィルム・金属板などのムラやキズ、
μmオーダーの膜厚差を検査するために、光がよく使われます。

  • 斜め方向から光を当てて、キズの部分だけ反射させる
  • 干渉を利用して、膜厚の違いを虹色のパターンとして浮かび上がらせる
  • 散乱光の量を測って、表面粗さの違いを数値化する

いずれも、

「目で直接は判別しづらい微小な差」を、「コントラストのあるパターン」や「数値」として取り出す

技術です。

note本編で触れた洗剤の薄膜の虹色も、
工業検査で使われる薄膜干渉の一番身近な例だと考えることができます。


noteの手元実験は、光工学のどこにつながる?

note記事の「手元5分実験」は、光工学の入口そのものです。

偏光サングラスの実験

  • 反射光を偏光フィルタでカットする
    「反射のギラつき」という不要な情報を抑え、見たいものだけ残す操作

現場では、偏光フィルタを使って
「表面の映り込みを消してキズだけ浮かび上がらせる」といった使い方をします。

ストローの屈折実験

  • 空気と水で屈折率が違う
    レンズ設計や光路設計の基礎

光工学では、屈折率の違いを使って「どこに像を結ばせるか」を精密に設計します。

洗剤膜の干渉実験

  • μmオーダーの膜厚のムラが、虹色の模様として見える
    薄膜の厚み・均一性を光で評価する検査技術の原理

スマホのディスプレイ、レンズコーティング、自動車の塗装など、
多くの製造現場で、この“見えない膜厚”を光で監視しています。


note記事とのつながり

この記事は、note記事のうち

の部分を、現場例と道具の役割に焦点を当てて整理したものです。

合わせて読んでもらうと流れが掴みやすいのは:

  • 「どの電磁波にどんな性質があるか」
    → 物理パート(電磁波スペクトル)
  • 「なぜ人間の目が可視光に最適化されているか」
    → 量子光学パート(光子と網膜)

そのうえで光工学編を読むと、

「電磁波のどこを、どんな道具で拾い上げて、人間に分かる形に変えるか」

という設計の目線が見えてきて、
note記事『光の「見える」と「見えない」──3つの学問から見た「可視/不可視」の要点』全体が、単なる知識ではなく「現場で使える見方」として解釈しやすいです。

👇 【光の「見える」と「見えない」──3つの学問から見た「可視/不可視」の要点】

👇 物理パート:【電磁波スペクトル入門──「光=波長」の整理メモ】

👇 量子光学パート:【可視光は「網膜が選んだエネルギー帯」──量子光学の視点で”見える”/”見えない”】

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