はじめに
前回の変化ログ#1では、「輪郭のない設計図」という概念のもと、完成ではなく、未完成の“今”に生きるという選択を記録しました。今回は、それに続く形で、「環境の変化が引き起こす心理と思考の変化」について、個人的な体験と気づきを記録します。
1. 環境が変わるとき、思考も揺れる
環境が変わると、気づかぬうちに心も揺れます。
私にとって最も大きな変化は、28歳の春に訪れました。家庭を築き、妻と3人の娘を授かり、「順調」という言葉がしっくりくるような日々。そんなとき、私が担当していた業務において、競合他社が絡む新規プロジェクトが立ち上がりました。部署内でも注目されるプロジェクトの一員に選ばれた私は、やりがいと責任を感じ、仕事に没頭しました。
しかしその代償は大きく、家庭を顧みることをしなくなっていたのです。ある日、帰宅すると、部屋には誰もいませんでした。机の上に一通の手紙。妻と娘たちは出ていったのです。書かれていた言葉を読み、私は離婚という現実を受け入れるしかありませんでした。
この出来事は、私の仕事に対するモチベーションを根底から揺さぶりました。あれほどまでに打ち込んでいた仕事の熱は消え、別の業界へと興味が向かい、気づけば新たな資格を取得していました。
この心の変化において最も象徴的だったのは、「今いる場所で踏ん張る」ではなく、「環境を変えることで自分も変わる」という考えに自然とシフトしていたことです。
何もしていないとき、ふとした瞬間に頭の中で未来の不安が回り始める。まだ起きていない未来を妄想し、その想像に感情が引きずられてしまう。そんな思考の渦から抜け出すには、“意識的な行動”と“変化を与える”ことが必要でした。
要点まとめ:
- 環境の変化は、思考の揺れを引き起こす。
- 家庭を失った経験が、思考と行動の大きな転換点となった。
- 「今いる場所に固執する」のではなく、「変化を受け入れること」で立ち直る力を得た。
2. 「何かをする」と思考が止まるという発見
要点まとめ:
- 無意識に走る思考を止める鍵は「身体性」だった。
- 呼吸と動作を同期させることで、“今”に意識を戻す。
- 苦しさを通して、身体が脳よりも優先される状態が生まれる。
ある日、気づきがありました。
頭の中が騒がしくなっているとき、私が“何か”に集中していると、思考の渦が一時的に止まることがあったのです。特に効果的だったのは、人間の「生存本能」に関わる、ある自然な働きを活用することでした。
それは──「呼吸」です。
呼吸はあまりに当たり前の存在で、私たちはその重要性を忘れがちです。しかし、呼吸は生物としての原点であり、意識を“今”に引き戻す最もシンプルで強力な手段でもあります。
なぜ呼吸なのか? それは、思考が暴走しているとき、私たちの脳は未来や過去の仮想空間に入り込み、今ここにある身体の感覚から切り離されてしまうからです。
私は、ある方法を通じて、自分の心拍数と呼吸のリズムに意識を集中させることで、暴れまわる思考を止めることができました。
私が実際に行った呼吸法
- 大きく息を吸う:できるだけ肺いっぱいに空気を取り込むことを意識します。
- ゆっくり吐きながら、ゆっくりしゃがむ:呼吸と身体の動きを一致させることがポイントです。
- ゆっくり吐きながら、ゆっくり立ち上がる:この動作を焦らず、呼吸のペースに合わせて行います。
- そのまま、普通の呼吸に戻るまで待つ:意識は呼吸に集中し、自然なリズムが戻るのを待ちます。
この一連の動作により、身体には心拍数の上昇が起こります。酸素を求めて呼吸が深くなり、カラダは「酸素不足=苦しい」という状態を一時的に感じ取ります。
重要なのは、この“苦しさ”が脳の暴走思考を遮断してくれる点です。思考よりもまず生きることが優先され、脳は自然と「呼吸」へと意識を集中させるようになります。つまり、頭の中の騒がしさが、自分の肉体的な現実感によって静まるのです。

この一連の動きは、脳の中で暴走していた思考を「今、この身体」に戻してくれる働きをしてくれました。生物としての基本的なリズムに立ち返ることで、「いま、ここ」に自分を引き戻すことができたのです。
それは、逃げるのではなく、戻るという感覚。自分の身体に還ることで、過剰に働いていた思考を自然と静める手段でもありました。
科学的な根拠
この呼吸の効果は、科学的にも裏付けられています。深い呼吸によって副交感神経が優位になり、リラックスを促すホルモン(例:アセチルコリン)の分泌が活発になります。これにより、心拍数が安定し、過活動状態にあった扁桃体(脳の感情を司る部位)の働きが抑えられ、思考の暴走が鎮まるとされています。
また、「呼吸と動作を同期させる」ことは、マインドフルネスや瞑想においても基本とされており、現在の身体感覚に意識を集中させることで、脳のデフォルト・モード・ネットワーク(内的な雑念や自己反芻に関わる回路)の活動が一時的に低下するという研究もあります。
日常への取り入れ方
この呼吸法は、特別な道具も場所も必要とせず、誰でもすぐに始められるのが強みです。以下のような場面で、気軽に取り入れることができます:
- 朝の支度前に1セット
- 不安や焦りを感じたときにその場で実行
- 就寝前の心を落ち着ける時間に
- デスクワーク中の小休憩として
一日1回でも習慣化すれば、「思考が止まらない」という状態から抜け出しやすくなります。
何か大きな変化を起こすのではなく、小さな呼吸のひとつが、あなたを“今”に戻してくれる。その実感は、私にとって確かなものでした。
3. 無理に変えようとしない、ただ「変化を与える」
この経験から、私は「現状打破」ではなく「変化を与える」という考えにたどり着きました。
未来をコントロールしようとしたり、不安を排除しようとするほど、逆に不安は増幅されてしまう。だからこそ、無理に止めようとせず、ただ「別の流れ」に自分を乗せてみる。
光のある場所に行く、音の質感を変える、肌に触れるものを変えてみる。たったそれだけで、思考の波長が少しだけズレて、苦しさが静まることがあるのです。
要点まとめ:
- 不安を「消す」のではなく、「別の流れ」に乗せる。
- 小さな環境の変化が、思考のリズムを変えてくれる。
- 自分に合った“変化の入口”を持つことが心の安定につながる。
4. 呼吸の余白:わたしの暮らしに宿す小さな習慣
「呼吸」という一点に集中した体験を通じて、自分が穏やかさを取り戻せたこと。それは、決して特別な出来事ではなく、日常のささやかな行動の中にも同じ性質があることに気づかせてくれました。
たとえば、
- 外に出て風を感じる(空気の流れと身体の境界を意識)
- ノートに“いま考えていること”を吐き出す(思考を外に出すことで整理される)
- 手を動かして何かを作る(思考ではなく感覚に戻る)
どれも、脳の暴走を静かに断ち切り、“いま”の自分に呼吸を戻すための小さな習慣です。
要点まとめ:
- 呼吸を通して得た気づきは、日常にも活かせる。
- 五感を使う小さな行動が、思考の渦を断ち切る手助けになる。
- 習慣化された“今に戻る手段”は、心を守る装置になる。
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終わりに
変化は、自分に「与える」もの。環境が変わったときこそ、自分の心や思考がどう動いたのかを丁寧に見つめ、その中で生まれた感覚や違和感に耳を澄ませていきたい。
そして、今回の記録もまた、「輪郭のない設計図」の一部なのだと思います。
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